ただ「切る」だけでなく、ハサミは技術や思いを伝える

 

使い込んだ革のケースに大事に収められたハサミやコーム。「道具を見れば、それを使う人がわかる」とは、どの世界でも言われることだが、GARDENのスタッフたちが持つ道具ひとつひとつにも、その持ち主の物語が宿っている。

「今、使っているレザーは、スタイリストデビューするときに購入したものです。尊敬する先輩が使っていらっしゃるのを見て、『いつか自分も!』と思っていたんです」(drive for GARDEN  スタイリスト・西川真也さん)

 美容師の世界では「スタイリストになって初めて一人前」という見方が一般的ではあるけれど、アシスタント時代でなければ見えないものがある。レイヤースタイルが得意な美容師が使っているハサミは何か? ブラントカットが生きるグラデーションボブが上手な美容師は、どんなハサミを使っているのか? 切れ味が維持しやすいのは、どこのメーカーのものなのか? アフターサービスが充実しているのは?

 さまざまなメーカーがいいハサミをたくさん作り、切磋琢磨し、その上で、どこの何が選ばれているのかなどをアシスタントは、いろいろな角度で見ることができるのだ。

「実は、アシスタント時代は、他のハサミを使っていたんです。もらっていた給料で先輩と同じハサミを買おうと思えば買えたんですけれど、大切なハサミを譲り受けたので、僕は、それを何度も研ぎ直して使っていました」

 その大切なハサミとは、親戚から譲り受けたものだという。

 

「従姉が熊本で美容室の店長をやっていたんです。小さいころは、僕も髪をよく切ってもらっていました。明るくて優しくてお客さまからも愛されていて、僕の美容室の原体験は、そこだったと言ってもいいかもしれません。でも、その従姉は、今はいません。僕が美容の道をめざそうと思っていた専門学校生のときに病気で亡くなりました。30代の若さでした」

 その従姉が使っていたハサミは、親戚を介して、彼の手に渡る。

「学生のころはもちろん、GARDENに入社してからも、ウイッグをカットしたり、モデルハントをして人頭をカットしたり、僕は、そのハサミでたくさんの髪を切ってきました。ウイッグの髪は、何体もカットするとハサミの切れ味がどんどん落ちていくんですけれど、それでも何度も何度も研ぎに出して……。辛い練習でも頑張れたのは、そのハサミがあったからかもしれません。髪を切りたいのに切ることができなくなった人のことを思い出させてくれますから」

 そうして技術を磨き、スタイリストデビューを控えたときに、彼は今のハサミを自分で購入する。

「実は、使い込むうちに研ぎに出しても、切れなくなってきていたんです。僕は、そのハサミを卒業する時が来たんだなと感じました。デビューまで支えてくれたハサミに感謝の気持ちはあったけれど、切れないハサミでカットして、お客さまに満足のいくスタイルを提供できないのでは、亡くなった従姉も哀しむと思ったんです。そして、今のハサミを買いました。いろんなスタイルを次々に生み出し、お客さまの信頼も厚い先輩が使っているのと同じハサミです。いつかああなりたい!ーーそれを自分の手で実現するために、迷わずに選びました」

 彼は今、自分で買ったハサミで毎日、多くのお客さまの髪を切っている。

「ハサミは、使い方次第で、お客さまを喜ばせることもできれば、哀しませてしまうこともある。お気に入りのスタイルが簡単にできるかどうかで、毎日を楽に過ごせるようにしてあげることもできれば、毎日を憂鬱なものにしてしまうこともある。使い手の使い方ひとつで、お客さまの生活を変えてしまうんです。ハサミは、僕にとって、技術や想いを伝えるための大切なものです」